原文 一、生海鼠は赤、青、黄あり、赤色のは肉厚き故上品とす、次は黄、次は青なり、赤はわたに砂なし、 黄は右に次ぎ青は砂のなきは稀なり。右生海鼠取りたての品は、何れも堅く肉しまり日数を経たるは肉柔らかなり。 (但し塗物へ入れる時は、新しき品も柔らかになるなり、陶物へ入れ置く時は堅く成るなり、わらを入る時は、 とけるなり、わらは大禁物なり。)遠路へ遣すには、取りたての堅き品へ、生柚の皮をむき一同に桶へ入れ遣す時は、 冬の日にて十日位は持つなり、柚は丸の儘入れても、二つ切位にしてもよし。生海鼠の多少により柚を入れるも多少あり、 生海鼠は首尾を切りたち割り、小口よりよく切れる包丁を以て極く薄く皮をむき捨てる時は、烏賊[いか]の如き真白に成り、 格別見た所もよく柔らかに成りて、歯悪しき人にても喰えるなり。細に切りみしほかけて用ゆ、生姜おろしより、 大根おろし、わさびおろしより、人参好み候者は、おろし人参を用ゆるもよし。 (但し、細かに切りたる生海鼠を堅くするには塗重へ入れ、生塩少々入れて、振る時は堅く成るなり、 その時水にて洗う、但し、熟れたる品は堅く相い成らず、なまこは、塗物へ入れれば熟れ、陶器へ入れれば堅く成る所、 切りたるは塗重箱へ塩と一同入れ振る時は堅くなるなり。) 又法 一、取りたての生海鼠のわたへ醤油をたらして用ゆるもよし。干たるは、藁灰あく〔灰汁〕水へ一夜漬る時は柔になるなり。
備考:料理というよりは保存法。ナマコは江戸時代に良く利用された食材からその保存法は当時の重大関心事。貯蔵法については食菜録下巻157。