原文 小麦粉 四百八十目、食塩 三戔[せん]、甘酒 二合、冬日極寒の節は二合五勺ばかり入れるなり。四季寒暖により少し斟酌〔微調整〕すべし。 右三味水にて捏ね揉み軟らかにして稍[ようや]く丸す可きに至るを、八箇に分ち(半斤パンの割合なり)図の如く口径凡そ六寸、 深さ凡そ三寸程の土鍋の裏面に、 豚油若くは麻油を塗り、パンの地を納れこれを助暖に納れ莞莚〔イグサで編んだむしろ〕[ゐむしろ]を覆い又た蓋を覆う、 下火は極めて弱劣にして熱灰中所々細火ありて、人膚の如き暖かさを以て漸々〔徐々に〕あたたむる時は、土鍋中のパン次第に膨張するに至りて、 上面乾燥せざるが為に、二、三度指を以て、少しく水を振り掛け既に膨張すること十分なゐる時に当たりて、 まず塗釜中におよそ二十斤より三十斤までの薪を焼き尽す時は炉中石面白色となるを度とし、 図の如く藁[わら]を以て作りたる長柄の箒[ほうき]を水に浸し置き、 これにて火を掻き出し、中に埋め置くところの壺中に納れ滅〔消〕し、残余の細火を炉中の四方に寄せ、箒にまた水を注ぎ、下面を掃き、 さて箸の大さにしてまず少しく尖りたる木を水にて湿し、パンの上面数ヶ所を突き、図の如き刺扠 (フォーク状の器具、パンを釜に出入させるための器具か)に土鍋の底をかけ、爐中に納れ、蓋を覆い、少間にして視る時、 パンを上面焦黄色となるに及んで、初めの如く刺扠[さ]にて取出し、土鍋を反覆し、パンを土鍋より出し、前に上面なる所を下面となし、 杓子の如きものに乗せまた炉中に納れ蓋を覆い、半ば焼けるをうかがい、杓子を以て回し前面を後面となす、又蓋を覆い前面焦げ、 黄色となるを度とし炉出す〔いろりより出す〕。 (石島注)炉は爐の俗字にして「いろり」と云う。
備考:合類に記載なし。 この製法が再現可能であるかは、不明。