下巻192
寒元の方
原文
一、極上白米 一石、白米 四斗、糀に寝せ、(但し十月より冬至位までを良き節とす。但し大飯切十枚へ仕込み置、
つぶつぶ致[いた]し候、桶二本へ寄せこれを元一組と云う)右は白米よくよく洗い二夜水へひたし、ふかし、
莚[むしろ]十枚へ取りよくよく冷まし、糀四升ずつ割合、飯切一枚へ水一斗二升ずつよく合わせ、
一夜置いて翌日(図あれども略す)此の如く山をあげ一夜置く、右強飯等どろどろとなるまでよくよく揉み潰し置き、それより昼夜に五六度ずつ、
(図解あれども略す)此の如くなる箆[へゐにて、掻き回し、掻き回し置き、(十日或いは十七、八日)位にて、
箆当たり軽く成るなり。右に随い甘味出で候節、右の桶二本へ寄せ、桶を菰にて巻き、又た莚をかけ念入りに包み置き、
暖気樽へ(図解あれども略す)此の如き樽なり、煮え湯を入れ、一昼夜に一本ずつ入れ熱を出すなり、暖気入れ候、
最初はせわしく所々へ回し、段々に湯の冷めるに従い遠く回し、(但し蓋をして上へ莚等を置くなり)一夜過ぎてまた樽の湯を替えるなり、
右の如くいたし候事しばらく、尤も湯気随い四度、五度、六度位の内に大泡出る(これを蟹泡というなり)、
わき上り、又さらさらいう音いたし、泡こまかに成りわき沈み候を見てにがからみ出る、しぶく酢き味出て、
甘味少し有る頃をよしとし暖気を抜き、楫を入れせわしく冷まし申し候なり。(図解あれども略す)
(但し冷め次第にふた成り候程、かわのはり候を上元という、)
右造込み方
一、上白米 一石二斗、(但し是を□〔石島注:元か〕米と申し候)白米 三斗六升糀に寝せて入るべし。
水九斗或いは一石から一石二斗入れ(但し水つまり候程に酒よろしく出来る又た水は霄日汲み置き遣うべし)右を三尺七寸の桶、
前日よりよく洗い清め置き、莚にて包み、右の元半組水、右の割合にて舛目改め糀を入れ白米よく砥ぎ、二夜水にひたし置き候をふかし、
(尤もふかし飯、手の平にてもみ潰し芯のなき程にふかし)莚十二枚位へ取り少し冷まし、右の元水、
糀よくよく櫂[かい]にて合わせ、強飯あつきを仕込み蓋を締め、莚にて包み一夜置いて蓋を取り、
さっと櫂を入れ又た白米二石、白米六升を糀に寝せ、右同様にいたし仕込み候日より二夜過ぎて造り込み候なり。
(但し強飯はよく冷まし造り込むべし、尤も暖寒見計口伝あり)右の仕込み一日過ぎて蓋を取り櫂[かい]を入れ、
元の如くし蓋を締め置き、(但し酒のわき方悪き時は莚菰をかけ暖め申し候、)五日目位にて蓋を取りもろみ沈み候て、
沸き止み候櫂を入れ、折々さますなり。その後木綿袋へ入れ、舟にかけ桶へあけ置き、澱を引き清酒にいたすなり。
備考:酒の仕込み方。時期により特徴があるので専門知識を要す。