原文 黒大豆よく洗い、日に三日も五日も乾して醬油を豆とひたひたに入れ炭火の上にてそろそろと煮申し候、 細々杓子にてかき回し、大形、豆の煮え申し候時、喰て見るに醬油辛きものなり、 その時白砂糖を少し入れ、甘味を付け申し候、その後も細々かき回し申し候、 砂糖入れ候以後は猶火の弱きがよく候、醬油の煮詰[につま]り候時上げ申し候、 常のもの煮申し候ように、火加減仕り候得ば焦げ付き申し候ものにて候、 大豆余り堅過ぎ候得ば悪しきと存じ候わば、前かど〔前もって〕一日程日に干し申し候。 そうべつ〔そもそも〕精進の時は味噌汁にも、そのほか淸[すま]しの物、煮物にも、 酒塩に味淋酎〔=味醂〕を差してよし、如何にも少し差し候て、甘味を付け申す物にて候、常の如く、 ただの酒を差しその上へ味淋酎を加えてもよく候、精進の時は、酢の料理、殊に酢きつく成りたがり申し候、 その時は猶お味淋酎を加えたるがよく候、あえ物、煉[ね]り味噌の類[たぐい]は古酒を加え候得ば、 事の外甘味付き候てよく候、味噌を水にて延べ申し候時、その水を半分控え酒を差して、 この口伝は魚の時もよく候、こく塩あえ物に候、味淋酎は甘過ぎ申し候。
備考:合類巻三では「煮大豆方」。本文の表現に若干の違いあり。