食菜録

上巻6

鮒の鮨 但し近江の流

原文
寒の内に、鮒を漬け申し候。えらを取り、えらより 内臓を抜き、頭[かしら]を打ち拉[ひし]ぎ、盆なりとも、重箱なりとも、塩たくさんにため、裏表より、蓋、塩の上へ押し付け、 つくほど塩をつけて、鮨に漬け申し候。めしは玄米を強め[こわめ]に致し、よく冷まし、飯にも、塩を食塩に混ぜ合わせ、 たくさんにつけ申し候。初めは成程〔なるべく〕重しをよく置き、二十日程過ぎて、重しを常の鮨の加減程に、 弱く置き申し候、七十日程過ぎてよくなり候。いつまでも耐[こた]え申し候、来年夏秋の時分もきつく、香味よく、骨も一段と軟[やわ]らかになり申し候。 これも重しを緩め申し候時分に、塩水を蓋の上に溜め置き申し候、取り出し候て後、うちの魚飯の肩下がりになきように直し、蓋重しをいたし、又右の水を溜め候て置き申し候。

[主な食材]

鮒、玄米、

備考:合類巻四に「江州鮒の鮨」。いわゆる琵琶湖の鮒のなれ鮨である。