食菜録

本ホームページは、江戸時代末期の料理本である『食菜録』に関する研究成果を発信することを目的としています。食菜録は長らくほとんど忘れ去られた料理本でしたが、令和4年に発足した水戸食菜録研究会(事務局は、荒木雅也研究室)が、この書物の研究を開始しました。

同研究会の会員は、以下の通りです。

赤岩正樹……茨城大学研究・産学官連携機構特命教授
荒木雅也……茨城大学人文社会科学部教授
瀬戸祐介……弘道館研究員
永井博………茨城県立歴史館特任研究員
中川純一……中川学園調理技術専門学校校長

食菜録(しょくさいろく)とは、水戸藩の第9代藩主である徳川斉昭(1800年~1860年)が記したと伝えられるレシピ集であり、計300種類のレシピが掲載されています。
 石島績(いしじま・いさお)著『水戸烈公の医政と厚生運動 下巻』(日本衛生会 1943年)に全文が翻刻、所収されています(本ホームページでは、これを以下、「石島版食菜録」といいます)。なお、石島績氏は、茨城県下館保健所(現茨城県筑西保健所)の初代所長などの経歴がある、郷土史家です。『水戸烈公の医政と厚生運動 下巻』において石島氏は『食菜録』につき次のように解説しています。

Shokusai-roku is a collection of recipes reportedly written by Nariaki Tokugawa (1800-1860), the ninth lord of the Mito domain, and contains a total of 300 recipes.
The entire text is reprinted and included in "Mito Yukei no Isei to Kosei Undo (Mito's Medical Policy and Welfare Movement, Vol. 2)" written by Isao Ishijima (Nihon-Eisei-kai) (hereafter referred to as "Ishijima-ban Shokusai-Roku" on this website). Mr. Ishijima is a local historian who served as the first director of the Ibaraki Prefecture Shimodate Public Health Center. In his book "Mito Retsugaku no Iryosei to Kosei Undo", Ishijima explains the "Shokusai-roku" as follows.


食菜録は、(斉昭)公の多年の心血をそそぎまとめられたもので、原本は現に水戸彰考館に大切に保存されており、上、中、下の三巻に分かたれ、当時における調理法三百種ほど記載せられ、未だ世に公にされざる誠に得難い貴重なる文献である。しかもこの食菜録は(斉昭)公の実際的研究によって親撰せられたものである・・・
※()部は荒木加筆
───1943年9月執筆───

Shokusai-roku was compiled by Lord Nariaki Tokugawa, who devoted many years of his life to it. The original, which is still carefully preserved in the Mito-shokokan, is divided into three volumes (upper, middle, and lower) and describes about 300 cooking methods and recipes of the time, making it an extremely valuable document that has not yet been made available to the public. Moreover, this Shokusai-roku was newly compiled based on Lord Nariaki Tokugawa's practical research.

本ホームページは、主に、

①食菜録掲載レシピ(300種)
②再現した料理の写真
③調理場面の動画

の3つから成ります。
ホームページ作成は、茨城大学人文社会科学部所属学生である阿井章真氏、高橋千尋氏、中田莉菜氏に担当して頂きました。また、菅谷克行茨城大学人文社会科学部教授にご助言とご支援を頂きました。

①は石島版食菜録を底本としています。石島版食菜録に掲載されている原文に水戸食菜録研究会による補足、解説を加え、300種のレシピすべてにつき、全文を掲載しています。また、補足と解説につきましては、井澤耕一 茨城大学人文社会科学部教授にご助言を頂戴しました。補足と解説は以下のような考え方の下に行いました。

●できるだけ読みやすくするために
 〇古い仮名遣いを現代の仮名遣いに改める
 〇句読点の付け方を一部変更する
 〇今日用いられていない漢字を別の漢字に改める(鹽→塩など)
などの作業を行いました。
●わかりにくい単語や表現については、備考欄に解説を付記しています。
●食菜録所収のレシピは、『合類日用料理抄』(元禄2年/1968年刊、本ホームページでは「合類」と略称)などの江戸時代の他の料理本から転記されているものもあり、それとの関連につき、判明しているものについては、備考欄に解説記事を掲載しています。
●( )は石島版食菜録の記述をそのまま踏襲しています(石島氏による解説等であることを示します)。〔 〕は水戸食菜録研究会が補足・解説したものであることを示します。

① is based on the Ishijima version of "Shokusai-roku". The original text of the Ishijima version of "Shokusai-roku" has been supplemented with additions and explanations by the Mito Shokusai-roku Kenkyukai, and all 300 recipes are included in their entirety. We would also like to thank Professor Koichi Izawa of Ibaraki University's College of Humanities and Social Sciences for his very detailed advice on the additions and commentary.

{Additions and explanations were made based on the following ideas}
● We have changed the old kana usage to modern kana usage to make the text as easy to read as possible.
● Kanji characters that are not used today have been changed to other kanji (e.g., salt from 鹽→塩).
● Words and phrases that are difficult to understand are noted with an explanation in the remarks column.
● Some of the recipes in Shokusai-roku were transcribed from other Edo period cookbooks, such as "Gorui Nichiyo Ryori Sho" (abbreviated as "Gorui" in this website), and explanatory articles are noted in the " remarks" column if the relationship between the recipe and the cookbook is known.
● The descriptions in parentheses ( ) are taken from Ishijima's version of Shokusai-roku, and are shown as they were in Ishijima's commentary. The [ ] indicates that this is an addition or commentary by the Mito Shokusai-roku Kenkyukai.

入力作業は茨城大学人文社会科学部の学生の皆さん(飯田雄成氏、宇都宮将太氏、菅原菜穂氏、中山萌菜氏、西野峻矢氏、西山千聖氏、薄葉月奈氏、大宮良仁氏、川嶋隆史氏、齋藤吉健氏)と、茨城大学の大学院生に担当して頂きました。
②写真と③動画は、中川学園調理技術専門学校において撮影したものです。それ以外の写真は、茨城県庁のご厚意に基づき、社団法人茨城県観光協会編『彰往考来』(2000年)から、本ホームページに転記しました。なお、『彰往考来』は、以前に同協会が中川学園調理技術専門学校の協力を得て作成したものです。②③に撮影されている料理は、すべて同専門学校のスタッフに調理を担当して頂きました。
②のうち、「鯛昆布(たいこう)秀吉」、「茄子のへた」、「鰹を貯る法」の3点につきましては、速水雄輔氏の撮影によります。それ以外の写真の出典は、社団法人茨城県観光協会編『彰往考来』(2000年)です。この書物は、以前に同協会が中川学園調理技術専門学校の協力を得て作成したものです。
③も、速水雄輔氏の撮影によるものです。調理を実際に行っているのは、眞嶋伸二氏(中川学園調理技術専門学校統括部長)です。
最後に、食菜録は、地理的表示法(「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」)に基づき2018年に地理的表示登録された「水戸柔甘ねぎ」(登録番号59)の明細書の中で言及されていることを申し添えておきます。

令和5年7月5日 荒木雅也